ヴァイスシュヴァルツは本当に運ゲーなの?
WSは、ゲーム性について「運ゲーだからクソゲーである」「運ゲーだから、デッキ構築やプレイングの要素が無いじゃんけん」と言う批判がある。
運要素が高いのは事実であるが、俺は上記批判を的外れであると考える。
俺は、技術介入の要素は充分にあると思っている。
批判される背景
批判されるのは根本的な原因は、単純に運要素が高いからではない。
「ダメージチェックでクライマックスカードが出たら、与えたダメージがキャンセルされる」と言うルールに不快感があるからである。
多くのTCGは「先攻/後攻の決定」「ドローしたカードが何であるか」以外に運要素を持たない。*1
つまり、基本的にTCGにおいて、何らかの行動をした場合、その結果は、場にあるカードなどの公開情報とお互いの手札で一意に決まる、結果を予測できるのである。
特にダメージを与えるような、ゲームの勝利条件/敗北条件に直結するような行動の結果が予測できるのは重要である。「このままなら、後何ターンでゲームの勝敗が決着するか」と言うのは必ず計算するからである。ダメージレースになっているなら、どちらか先に勝つかは算出できる。劣勢な方は、なんとかして状況を逆転させないとならない。
ところが、WSだと、ダメージキャンセルがランダムの発生するため、場の状況が固定してても「後何ターンでゲームの勝敗が決着するか」が確定しない。
それどころか、ダメージレースとなっている場合、どちらか勝つかが未確定であるすらある。
既存のTCGに慣れた人間にとって、「ダメージが確実に入らない」と言うのは相当なストレスになる。
技術介入の余地は本当に無いのか?
例えばRPGやSLGで良くある仕様のように「攻撃の命中確率はXXパーセント」と決まっていて、その確率が不変であるなら、技術介入の余地は低い。デッキ構築やプレイングの要素が低いと言われても仕方ない。
今あるWSへの批判は、上記のようにダメージキャンセルの発生する確率が固定であると勘違いした上で行われている様に受け取れる。
実際は異なる。
デッキ枚数と残っているクライマックスカードの枚数で、ダメージキャンセルの発生確率は変化する。
ゲーム性の関係する重要なポイントとして以下の事項が挙げられる。
1回ダメージキャンセルが発生すると、以後、ダメージキャンセルの発生率が下がる。
逆に、ダメージキャンセルが発生しないでデッキ枚数が減っていくと、今度はダメージキャンセルの発生率が上がる。
これにより、WSはプレイングやデッキ構築等、技術介入の余地を獲得している。
技術介入の余地が無いと指摘している人は、下記の点に気が付いていない。
(1)キャンセル発生率は算出可能で、それに基き、期待値計算で与えるダメージ数もある程度の予測が可能。
(2)1回リフレッシュする迄にダメージキャンセルが発生する回数はほぼ固定。
(3)リフレッシュ後のデッキに含まれるクライマックスカードの枚数は、プレイング次第で増減する。
■■■キャンセル発生率は算出可能で、それに基き、期待値計算で与えるダメージ数もある程度の予測が可能
先程の、RPGやSLGで良くある命中確率が固定の仕様と同様、期待値計算によって与えるダメージの期待値は算出可能である。
ただし、算出する為にはデッキ枚数とデッキ内に残るクライマックスカードの枚数が情報として必要。
例えば、デッキ25枚、クライマックスカード残り4枚の場合、ソウル2点のアタックでダメージキャンセルが発生しない確率は以下。
21/25×20/24=70%
ダメージキャンセルの発生確率は、100%から上記を引いたものになるので
100%-70%=30%
そして、アタック1回当たりのダメージ期待値は、70%の確率で2点入るのだから
2×0.7=1.4
1ターン当たり3回のアタックが可能なのだから、1ターンにつき3回の試行回数がある。
だから、与えるダメージ関しては割と期待値で落ち着く。
■■■1回リフレッシュする迄にダメージキャンセルが発生する回数はほぼ固定
毎ターン全てのダメージがキャンセルするような事は発生しないという事。
例えば、あるターンで3回のアタック全てがダメージキャンセルされた場合、それ以降のターンは、リフレッシュするまで、ダメージキャンセルの発生率が下がる。
また逆に、序盤にダメージキャンセルが殆ど発生しなかった場合、後半のダメージキャンセル発生率は上がる。
つまり、リフレッシュするまでの間、ダメージキャンセル発生する回数はほぼ一定である。その回数は極端に多かったり少なかったりはしないと言う事だ。
□ 具体例
仮に、デッキが半分の25枚、クライマックスカードも半分の4枚がデッキに残っているとしよう。この場合のクロック期待値と、キャンセル発生率は以下になる。
○25枚中4枚クライマックスカード
ソウル | クロック期待値 | キャンセル発生率 |
---|---|---|
1 | 0.84 | 16.0% |
2 | 1.40 | 30.0% |
3 | 1.73 | 42.2% |
4 | 1.89 | 52.7% |
5 | 1.92 | 61.7% |
6 | 1.84 | 69.4% |
7 | 1.69 | 75.8% |
ソウル3点までは、ソウルが1点上がる度にそれなりに期待値が上昇するが、ソウル4点目以降は、1点あがってもそれほど期待値は上がらない。6点目からは、逆に期待値が下がってしまう。
○20枚中1枚クライマックスカード
ソウル | クロック期待値 | キャンセル発生率 |
---|---|---|
1 | 0.95 | 5.0% |
2 | 1.80 | 10.0% |
3 | 2.55 | 15.0% |
4 | 3.20 | 20.0% |
5 | 3.75 | 25.0% |
6 | 4.20 | 30.0% |
7 | 4.55 | 35.0% |
で、このターンのアタック3回で全てダメージキャンセルが発生したとしよう。
残りデッキ枚数が仮に20枚となったとして、残っているクライマックスカードは1枚。この場合のクロック期待値と、キャンセル発生率は上記のように変化する。
この状況では、ソウルが上がる分だけ期待値も高くなる。
非現実的な値なので表には載せていないが、ソウルの上昇によって期待値が減少するのは、ソウル11点目以降である。キャンセル発生率もかなり低い。先に挙げたデッキ25枚中クライマックスカード4枚の時、ソウル2点でのキャンセル発生率が30%であるが、この場合に30%のキャンセル率に達するのはソウル6点の場合である。
つまり、前のターンでダメージキャンセルが3度も発生したから、次のターン以降、ダメージキャンセルの発生率が低まったと言う事だ。
○20枚中4枚クライマックスカード
ソウル | クロック期待値 | キャンセル発生率 |
---|---|---|
1 | 0.80 | 20.0% |
2 | 1.26 | 36.8% |
3 | 1.47 | 50.9% |
4 | 1.50 | 62.4% |
5 | 1.41 | 71.8% |
6 | 1.24 | 79.3% |
7 | 1.03 | 85.2% |
また、先程とは逆に、3回のアタック全てがキャンセルされなかったとした場合は上記になる。
ソウル2点から4点の間は、期待値が上昇するがその幅は小さく、ソウルを上昇させる労力に釣り合わない。
また、ソウルの上昇によって期待値が減少するのは、ソウル5点目以降とかなり早い。
ダメージキャンセルの発生率も、他の例と比べて格段に高いのが解るだろう。
つまり、前のターンでダメージキャンセルが1度も発生しなかったから、次のターン以降、ダメージキャンセルの発生率が高まったと言う事だ。
□ プレイングへの応用1〜効率よくダメージを与える
発生したダメージキャンセルの回数や、トリガーチェックやクライマックスフェーズで使用されたクライマックスカードの枚数をカウントとして居れば、デッキに何枚のクライマックスカードが残っているか推測できる。
相手のデッキに対して上記の推測を行い、それを材料として、攻撃する際のソウル数を調整すれば、効率よくダメージを与える事ができる。
残りのクライマックスカードの枚数が少なければ、キャンセルの発生率が低いので、ソウルが大きい方が効率よくダメージを入れらる。
残りのクライマックスカードの枚数が多ければ、キャンセルの発生率が高くなり、小さいソウルで小刻みにダメージを与える方が効率良くなる。
□ プレイングへの応用2〜効率よくダメージキャンセルの恩恵を受ける
上記の推測を自分のデッキに対して行う事もできる。
相手のデッキに対して推測をする場合、手札に握られているクライマックスカードの枚数を考慮しないとならない分、値が不正確になるが、自分のデッキに対する推測なら、手札に握っているクライマックスカードの枚数も解るので正確であろう。
この推測を利用したプレイングとしては、以下が挙げられる。
デッキ枚数に対して残っているクライマックスカードの枚数が多いなら、ドローを控える等でリフレッシュの発生を遅らせる事で、相手のアタックによるダメージキャンセルの発生率が高い状態を維持できる。
逆に、デッキ枚数に対して残っているクライマックスカードの枚数が少ないなら、積極的にドローをする等でリフレッシュの発生を早める事で、ダメージキャンセルの発生率が低い状態を短く抑える事も可能である。
■■■リフレッシュ後のデッキに含まれるクライマックスカードの枚数は、プレイング次第で増減する
具体的なプレイングの例は過去にも書いたので割愛する。
http://d.hatena.ne.jp/Nakaji_c/20080401#p4
また、先日の「今日のカード」で公開された、控え室のカードを2枚思い出に送る効果は、相手のクライマックスカードを思い出に送る事で、リフレッシュ後のダメージキャンセル発生率を大きく操作できる。
○35枚中7枚クライマックスカード
ソウル | クロック期待値 | キャンセル発生率 |
---|---|---|
1 | 0.80 | 20.0% |
2 | 1.27 | 36.5% |
3 | 1.50 | 50.0% |
4 | 1.56 | 60.9% |
5 | 1.51 | 69.7% |
6 | 1.39 | 76.8% |
7 | 1.23 | 82.4% |
○33枚中5枚クライマックスカード
ソウル | クロック期待値 | キャンセル発生率 |
---|---|---|
1 | 0.85 | 15.2% |
2 | 1.43 | 28.4% |
3 | 1.80 | 40.0% |
4 | 2.00 | 50.0% |
5 | 2.07 | 58.6% |
6 | 2.04 | 66.0% |
7 | 1.94 | 72.3% |
リフレッシュで山札に戻されるクライマックスカードが2枚少ないと、ダメージキャンセル発生率で見ると、ソウル1点分ぐらいのアドバンテージが出てくる。
本当に「運ゲーでクソゲー」なTCGとは?
TCGの歴史では「運ゲー=クソゲー」と言うケースは多くあった。
大抵のTCGは先攻と後攻で初期に与えられるリソースに差が付けられる。どんなルールにしても、先に行動する分、先攻が有利だからだ。
しかし、中には与えられるリソースが全く同じTCGも存在した。そんなTCGは、多くのユーザが感じていた通り、先攻/後攻別に勝率を集計したら、先攻の勝率が有意に高かった。
そのようなゲームは、ゲームを始める前の先攻/後攻を決定するじゃんけんの段階で勝敗が付いたと言っても過言ではない。「運ゲー=クソゲー」な例である。
先攻/後攻でリソースに差があったとしても、先攻を取れば高確率で1ターンキルを達成できるようなTCGもまた、ゲームを始める前の先攻/後攻を決定するじゃんけんの段階で勝敗が付くので、「運ゲー=クソゲー」な例でとなる。
また、カードバランスが悪い場合、1枚のカードをプレイするだけでリソースに圧倒的な差が付いて、勝敗が決着する事がある。そのような強力なカードを先に引いて通した方が勝ちなTCGは、やはり、「運ゲー=クソゲー」な例となる。
以上の話を総合すると、「運ゲー=クソゲー」なTCGには、1回の運要素による判定で勝敗が決着すると言う共通項がある。
WSの場合、ダメージチェックにおけるダメージキャンセルは、1回につき発生するアドバンテージは、ダメージレースにおいて1/3ターン分しかない。
かつ、発生回数が運によってさほど不均等にはならない。引いてしまったり、トリガーチェックで出た場合も、それなりのアドバンテージが発生するのだから、ダメージキャンセルの回数が少ない=アドバンテージを失うではない。*2
そして、リフレッシュ後の発生回数については、技術介入の要素が充分にある。
WSは、1回ダメージキャンセルが発生した程度では勝敗が決着しない。
それまでのターンでリソースの奪い合いを行った結果1ターン差で負けるという勝負が、1回のダメージキャンセルによって勝敗が引っくり返る事はある。が、その勝負は運のみで決着が付いた訳ではない。
WSは、運ゲーではあるが、それによってクソゲーにはなっていないと言える。
思うに、「運ゲー=クソゲー」と言う定理は、実はクソゲーなTCGの存在が先にあり、そのTCGをクソゲーにしてる要素を説明するために○○ゲーと言う言葉が出来ただけなんじゃないだろうか?
他にもクソゲーなTCGを指す言葉して、「先攻ゲー」とか「ぶっぱゲー」とか「資産ゲー」とか色々と表現がある訳だし。
*1:例外は色々とある。システムレベルで言うと以下がある。
『モンスターコレクション』のイニシアチブ決定タイミング:
6面体のサイコロを振って、出目+カードによる修正値で、バトル内の先攻後攻が決まる。また、双方が同じ値になったら、同時タイミングとして、カードによる修正を受けないバトルに突入し、戦局が大きく変わる。
『ポケットモンスター』のコイントス:
色々な状況でコイントスによる判定が行われる(「ねむり」「くろこげ」「こんらん」など)。
『ハーレムマスター』のランダムナンバー:
バトル結果の判定に、WSのトリガーチェック同様にデッキの1番上のカードを表返して、ランダムナンバーと呼ばれるそのカードの修正値を加味する。カードを普通に使った場合の強さと、割り振られるランダムナンバーはほぼ反比例している点や、ランダムナンバーを使用したカードはデッキの底に送られる為ゲーム後半はカードの順番を覚えている点など、技術介入の余地がある。
『アクエリアンエイジ』のダメージ判定:
プレーヤーにダメージを与えた場合、与えたダメージの分、デッキを表返し、特定のカードのみダメージ置き場に送り、残りは場にプレイされる。このゲームの敗北条件はデッキが切れるか、ダメージ置き場に10枚のカードを置かれた場合である。ダメージ置き場に10枚のカードを置く為に必要なダメージは、相手のデッキ構成により変化する。理論上の最低値は10点だが、60点(=ルールで認められてるデッキ枚数の上限)与えてもダメージ置き場に10枚のカードが置かれないデッキも構築可能。5年以上前のSagaI時代は、ダメージ置き場に送られるカードを10枚以下で構築した、60ダメージを与えてもダメージで敗北しないデッキがトーナメントデッキとして成立したが(http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/7422/aquarianage/rep20020720.htmlを参照)、SagaII以降、ダメージ置き場に送られるカードがデッキに30枚近く入るのが一般的となるよう、カードバランスが変更されてしまった。
また、カードレベルで言うと、色々なTCGにフリップコインなどの判定を行うカードがある。基本的に効果が不安定なので実戦レベルのカードとは見なされないが、中にはMTGの《Frenetic Efreet》など実戦レベルのカードも存在する。
*2:現状のカードバランスでは、トリガーチェックで出た場合に発生するアドバンテージが、ダメージキャンセルした場合や、クライマックスフェーズでプレイした場合と比べて低い。これは、あくまで今のカードバランスなので、今後、クライマックスフェーズでプレイした場合に発生するアドバンテージを減らし、その分トリガーチェックで出た場合に発生するアドバンテージを増やしたカードをデザインする事が想定できる。例えば、トリガーアイコンに「カードを1枚引く」が2つで、プレイした時の効果が「ソウル+1」とか。