TCGによって裁定が異なる話

先日書いた、クライマックスカードをバラけさせるシャッフルの話の続きです。
新作のTCGが立ち上がる時期と言うは、異なるTCGの経験者が1つのTCGを混ざって遊び始める時期である。よって、TCG別の考え方の違いから摩擦が発生しやすい時期でもある。
特に、フロアルール的な部分はTCGが異なっても同じだと考え易い。それゆえ、摩擦が起き易い。
摩擦を減らすには、TCGによって考え方が違う事を知っておく必要がある。それぞれのTCGの考え方と言うのは、そのTCG独自の事情を考慮したものである。大抵はどれも合理的な判断である。単純に正誤・優劣は付かない。

スイスドローの大会中に時間切れとなった際の処理
競技性の高いTCGでは、時間切れとなったタイミングで進行中のターンが終了した後、追加のターンが与えられる。追加ターン数は1ターン・5ターンなどがあるが、必ず奇数である(偶数だと、時間切れのタイミングで進行中のターンのプレーヤーが与えられるターン数が多くなる。奇数なら進行中で無い側のターン数が多くなるから、ターン数を多く得たいなら、時間切れのタイミングは相手のターンで迎えようとして、自然とターン進行が早まる)。
逆にカジュアルな要素が強いTCGでは、時間切れとなった段階で即座に打ち切りとなる。進行中のターンの終了を待たないし、追加ターンも与えられない。
追加ターンを与える事は、遅延行為の効用を低減させる。与えられるターンが多ければ多い程、効用が低減される。
また、単純に公平性も増す。
逆に、時間切れ即打ち切りのメリットは、大会の運営時間短縮にある。

■遅延行為に対する対応
単純な長考と、故意の遅延行為は区別が難しい。
かと言って、レスポンスが複雑なTCGでは、囲碁や将棋のように持ち時間制にするのは難しい。D0において、初期の頃、持ち時間制の導入が検討されたが、最終的に無理と判断された。
そこで、故意の有無に限らず、対戦相手に時間制限による不利を与える事自体を好ましくない事と定義し、「遅いプレイ」を罰則の対象にしているTCGがある。この規定は、競技性の高いTCGで採用されている。
具体的には、1手にかける時間や1ターンにかける時間を大まかに制約している。どの位の時間を掛けると「遅いプレイ」になるかははTCGによって異なる。また、一般的に「遅いプレイ」になる基準は、ジャッジには示されるが、プレーヤーに対しては示されない。

前項の時間切れの場合の処理と関連するが、カジュアルなTCGでは日本王者に対して遅延行為との関連性を指摘される事が多い。
これは、時間切れ即打ち切りで「遅いプレイ」に対する罰則無しと緩いフロアルールを敷いている事に原因が求められる。遅延行為をするメリットを低減せず、故意の遅延を取り締まりにくくしているので、罰則を取られない程度の遅延行為はある種のテクニックと認識されている面がある。

■オポーネント計算
オポーネント計算とは、スイスドローの大会で同じマッチポイントの人同士の順位を付けるのに使うものである。大会の結果から対戦相手の強さを算出する計算である。
大会を全勝で終えた人が優勝だと言うのは良いとして、2位に相応しい成績ってのは誰なのか? 直感的に、最終戦で優勝者に負けた人が2位のように思える。が、本当に2番目に強い人が、最終戦まで勝ち残ったとは限らない。マッチングのあやで1回戦目で負けているかもしれない。(1〜8の数字を適当に割り振ったスコアシートを作ってみて、「数字の多きい方が勝ち」と言うルールで実際にスイスドローをしてみると良い。3回戦目で『8』だけが全勝になるが、3回戦目の『8』の相手が『7』とは限らない)

簡易な算出方法では、単純に対戦相手のマッチポイントを合計する。店舗大会の多いカジュアルなTCGでは、このような算出方法が取られている。
しかし、この方法では色々な点で不公平が発生する。
対戦相手が途中棄権した場合は、その分マッチポイントが少なくなる。不戦勝を含む場合は丸々1人分マッチポイントが無い。また1〜2回戦は極端に弱い人とマッチングされる可能性があり、この辺も運要素が高い。
上記の問題点を解消するために、競技性の高いTCGでは、対戦相手のマッチ勝率の平均を算出する。それぞれの対戦相手について、途中棄権分を除いた参加試合数で得られる最大のマッチポイント(参加試合数×3)で実際のマッチポイントを割り、マッチ勝率を算出する。その上で、不戦勝を除いた対戦相手で平均を出す。その際。一定割合より勝率が低い対戦相手に着いては、一定割合に切り上げて算出する(この『一定割合』をミニマムパーセンテージと言い、0.33とするのが一般的である)。
なおこの算出方法は、筆算で算出するのは面倒なので、大会では専用のソフトウェアを使って算出している。
簡易な算出方法は、大会運営の負担が少ないと言うメリットがある。
競技性の高いTCGで行われている厳密な算出方法は、高い公平性にメリットがある。
(厳密に言うと、スイスドローTCGが発明される前から電源不要系ゲームの大会形式として存在し、公平なオポーネント計算方法も編み出されていた。上記の「簡易な算出方法」と言うのは、大会を開催する店舗に負担を掛けないように考案されたものらしい)

■同意による引き分け(インテンショナル・ドロー)
「スイスラウンドを適正回数行い、上位n名で決勝のシングルエリミを行う」と言う大会形式を敷くTCGでは、同意による引き分けが認められる。
上記の形式を敷かないTCGでは、同意による引き分けを認めていない物がある。

■賞品・賞金の分割(スプリット)
いわゆる『割り』と呼ばれる行為がある。
例えば優勝賞品が4000円相当のカードだったとして、スイスラウンドが進行して全勝者が4人に絞られたとする。その4人が「誰が優勝しても、優勝賞品を特定の人物に渡して、貰った人は残り3人にそれぞれ1000円相当のカードを提供する」と言う取り決めをするが『割り』である。
賞金制のTCGでは、カードの代わりに現金が分配される事になるが、対戦の結果を操作しない限り、望むとおりに賞品を分ける事は認められている。
が、一部のTCGでは、このような『割り』が禁止されている。

■ダブルスリーブの使用
ダブルスリーブとは、スリーブを2重にかけることである。使う側からすれば、カード保護が目的である。スリーブを1重にかけるより、2重にかけた方がより保護される。カジュアルなTCGでコレクター気質が強い人はダブルスリーブをする傾向が強い。
が、スリーブと言うものは基本的にマークドをし易い。スリーブを2重にかけるなら、1重よりもマークドが容易となる。
マークドになっていなかったらどのようなスリーブの使い方も認められるのが通常である。
が、ダブルスリーブによるイカサマがあったTCGでは、ダブルスリーブを明示的に禁止しているものもある。

■ブラフの禁止
ブラフと言うのは、一般的な定義を言うと、対策カードを持っているフリをして(実際は持っていない)特定の行動を仕掛ける事である。何らかのコンバットトリックを持っているフリをして、普通なら負けるような戦闘を仕掛けるとか。
TCGでは基本的なテクニックであると思うが、一部のTCGではフロアルールで禁止されている。
いや、意図は不明です。そもそも、ブラフが定義されていないので、上記の解釈で合っているのすら不明ですが。

WSではどうなるか?

WSのフロアルールは5/20に発表されるとの話である。
具体的な話はフロアルール発表待ちである。
個人的な推測を述べると、上記で述べた項目については、割と「競技的なTCG」寄りの内容になるのではないだろうか? ただし、違反した場合に課される罰則は、競技的なTCGより軽く設定されるだろう。
WS自体はカジュアル性が高いTCGを目指している。
が、WSのプロデューサー陣は過去にカジュアル性の高いTCGに携わっていて、カジュアルであるが故にフロアルールを作らなかった・緩いフロアルールにした事による弊害を知っていると推測される。
また、デザイナー陣も競技性の高いTCGの出身者である。罰則は軽くとも、競技的なTCG並の公平・公正な規定を敷くメリットを理解していると推測される。